UFO大通り(島田荘司)★★★★☆ 9/28読了

鮎川哲也氏に捧げられた本作の2編は「古き良き御手洗もの」への回帰と言っていいだろう。御手洗と石岡の馬車道時代の話である。

「UFO大通り」は、鎌倉に住むとあるお婆ちゃんの、早朝家の前の通りをUFOが走り、近くの山の中腹では煙の立ちこめるなか宇宙服を着た人たちが宇宙人相手に戦争していたという話に端を発している。そして、そのお婆ちゃんの2軒隣の家では、とある男が体全体に白いシーツを巻き付け、フルフェイスのヘルメットをかぶり、首にはマフラーを巻いた状態で自室の布団の上で死んでいた。しかも天井からは無数のガムテープがぶら下がっており、鍵は内側から閉められた密室状態である。

相変わらずの荒唐無稽な謎の提示ぶりに読んでいてワクワクしてくる。そして、例によって御手洗は考え事をしながらうろうろと歩き回り、石岡に理由を説明せずに急いで現場に向かったりする。「古き良き御手洗もの」ならではのお決まりのパターンだ。乱暴なのか実はそうでもないのかよく分からない捜査担当の刑事との絡みも笑える。

「傘を折る女」は、深夜ラジオの奇妙な話特集を石岡が聴いていたところから始まる。リスナーがDJに語った話の内容はこうだ。かなり強い雨が降っている夜にマンションのベランダから下の交差点を見ていると、白いワンピースを着て派手な色の傘を差した女がいる。信号を待っていたその女は突然傘を畳み、車道に傘を置き、どうやら車に傘を轢かせようとしている。何回かトライして、首尾よく車に傘を轢かせた女は曲がった傘を持って元来た道を戻っていった。

不思議に思った石岡はこの話を御手洗にする。すると御手洗はこれだけの情報をもとに、なぜその女がそのような不可解な行動を取ったのかを論理的に説明してみせるのだ。本格ミステリーファンならご存じの『九マイルは遠すぎる』と同じ趣向である。ちなみに『九マイルは遠すぎる』とは、「九マイルの道を歩くのは容易じゃない。ましてや雨の中では遠すぎる」という言葉だけをもとに推理を進めていく話である。

御手洗側の話と犯人側の話が交互に配置され、話の中盤では『九マイル・・』とは決別し、更なるひねりが加えられる。このひねりが入った時にはぞくぞくっときたのだが、解決はさすがにちょっと強引かな。まあ御手洗ものではありがちと言えばありがちだけど。

私のように「古き良き御手洗もの」が好きな人には十二分に楽しめる一冊だろう。

UFO大通りUFO大通り
島田 荘司

講談社 2006-09
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