『パンク侍、斬られて候』に続く時代物(?)で、河内音頭の「男持つなら熊太郎・弥五郎、十人殺して名を残す…」で知られる「河内十人斬り」をモチーフにしている。「津山三十人殺し」のことは『八つ墓村』や『龍臥亭事件』のモデルになっているので知っていたが、東京生まれ埼玉育ちで現在横浜に住んでいる私は、「河内十人斬り」のことは全く知らなかった。
「人はなぜ人を殺すのか」という大げさな惹句が帯に踊っているが、これはちょっと大げさだろう。自分の考えを言語化するのが極端に苦手な主人公熊太郎が何とか自分の思弁を言葉にするために苦心する物語である。
といっても別に小難しい話ではない。河内弁のしゃべくりをそのまま文章化してあるので、リズムがあるし無性におかしい。そして、『パンク侍、斬られて候』のときもそうだったが、時代物の文章に現代の言葉遣いを混ぜたものが最高におかしい。
例えば、盆踊りの時に女の子に声を掛けようかどうしようかと迷ってぐずぐず考えているときのこと。
しかし頭の一部には冷静な部分もあって、このように惑乱したみたいな状態で声をかけたら、「ひや。この人、惑乱したはるわ。きしょ」と言われるのではないかみたいなことも考えるからである。
それにしても、普段人が頭の中でぐずぐず考えているようなことを逐一文章化するその手腕(?)には感心する。本作では著者独自のシュールな描写も冴え渡っている。
熊太郎を現代の若者に置き換えて考える向きもあるかもしれないが、それもどうなのかなという気はする。個人的には、話がオリジナルな分、『パンク侍、斬られて候』の方が好きだな。