ジーコ・ジャパンに続け

スーパーカップ決勝 日本vsカナダ(10-15)秩父宮ラグビー場

去年のスーパーパワーズカップ決勝と同じ顔合わせである。去年の試合の観戦記はこちら。SO森田がデビューしたのがこの試合だったのだ。読みかえしてみて色々と思い出したが、あの試合はいい試合だった。森田のトライもよく覚えている。
それに比べて今回の試合は・・・、何だったんだろうか。

最近日本代表の動向をあまり熱心に追っていなかったが、「フランス流ラグビー」を目指しているとうことは小耳に挟んでいた。「フランス流ラグビー」といえば、あたかもシャンパンの泡が次々とはじけるように、各個人のアイディア溢れるプレーが連鎖的につながっていって最後にトライに結実するという華麗なラグビーのことではないのか。日本代表にそんなことできるのか?そこでネット上をちょっと調べてみた。

今季の日本代表は、フランス協会のテクニカルアドバイザーが語った言葉をイメージしてプレーしているという。 「家に入る時は壁を壊すのではなく、扉を開けて入れ」 相手防御を壊そうとぶち当たっていくのではなく、扉を開けるように、相手のスペースを突いてラインを割っていく。そうして体格に勝る相手に対抗するのが、日本の目指すフランス流ラグビーのスタイルでもある。

多くのトライは、スクラムラインアウトのセットプレーからCTBオツコロ、パーキンソンがデコイ(囮)ランナーとなって防御を引きつけ、大畑、小野澤、水野のスピードランナーを走らせるものだった。フランス流の「扉を開けて入る」という防御の崩し方はある程度できていたように思う。しかし、本来は連続攻撃を継続していく中でも個々の判断によって防御の穴を作っていくことがやりたいはず。

○萩本監督「グラウンドいっぱいに、うまくポジショニングはできているんですが、そのあいたスペースに走り込む、突く動きがたりなかった。それから相手がキックを警戒して後ろに下がっているところを、それを動かして相手を上げてからキックを蹴ろうというプランがあったのですが、相手を動かしきれなかった。攻め方、キックの使い方にちぐはぐなところがあったということです」

○箕内キャプテン「もちろん、ボールキャリアのスキルが球を出すための第一の条件になると思いますが、グラウンドいっぱいを使うものですから、ひとりひとりの間隔が広くなり、サポートが遅れてしまう場面が何度がありました」


こうしてみてみると私が考えていたのとは少し違うようだ。要するにグラウンドをワイドに使い、デコイランナー等を使って相手防御にスキを作り、そこにスピードランナーを走り込ませると、そういうことかな(違ってたらスミマセン)。
フランス流と言うからには、こういうことを決まり事として行うのではなく、自然発生的にというか、ある選手があるアイディアを元に動いたときに、別の選手が瞬時にその動きの意味を察してそれに続き、また別の選手がそれに呼応して、という風にならないといけないのではないだろうか。まあ、もちろん毎試合ある程度このようなことは行われていると思うが、それを高度な次元で行えるのかということで、そういうことができるレベルに日本代表がいるのだろうかという疑問は残る。但し、目標は高い方がいいので、「フランス流ラグビー」を掲げること自体はいいかもしれない。


というわけで試合に戻るが、見ていてワクワクする試合ではなかった。有り体に言えばつまらない試合だった。なぜか? トライを取りに行くんだという気概が日本代表に見られなかったからだ。とにかくキックが多すぎる。早稲田の五郎丸初スタメンということで、蹴ってくるんだろうなとは思ったが、それにしても蹴りすぎだ。蹴るということは相手にボールを渡すということである。それでも優位に立てるなら蹴ってもいいが、この試合の日本代表はただ相手にボールを渡しているだけだった。
最近のサッカーの試合でベンチスタートの稲本が試合を見ていてこう言ったという。「横パスが多いな。サイドチェンジするためにサイドチェンジしてるみたいだ。」
ちょうど同じような感じだった。好タッチキックは何本もあったのだが、好タッチキックを蹴るためにタッチキックを蹴っているような気がしてならなかった。何のために攻めているのか。トライを取るためでしょう。

負けました。残念。勝てる試合だった、という言い方はいけないかもしれないけど、勝てたなぁ。ルーマニア戦でも思ったけど、もっとジャパンから仕掛けてほしかった。キックで陣地を取り、カナダにプレッシャーをかけていこうというプランは理解できなくもないが、ある程度リスクを背負ってでも攻めないと、強い相手には勝てない。

村上氏も自身のブログでこう語っているとおり、攻めなきゃ勝てないよ。

日本代表の最初の得点はドロップゴールだった。こんなこと言っても誰も知らないだろうけど、私はずーっと前からドロップゴールの重要性を唱えてきた人間だ。要するに何をやってくるのか分からないぞと思わせることが相手に脅威を与えるのだ。しかし、この試合のドロップゴールはあまり感心できなかった。トライを取りに行った末のドロップゴールではなくて、初めからドロップゴール狙いのドロップゴールに見えたからだ。ドロップゴール狙いのドロップゴールというのはラグビーというゲームの根幹を揺るがしかねない。要するにアメリカンフットボールのパントチームみたいなチームを作って、ドロップゴールだけを狙っていけば点が入るのだから。そういう意味では、私は前回のワールドカップ決勝で勝利したイングランドにもあまりいい印象がない。
萩本監督はポイントの重要性を唱えているらしい。要するに敵陣に行ったら点を取って帰ってくるということだ。それはそうなんだけど「トライは取れそうにないんで、とりあえずドロップゴール入れて帰ってきました」じゃ駄目でしょう。

というわけで、キックばかりの日本とノッコンばかりのカナダという退屈な前半が終わって後半に入るとカナダのパワープレイが徐々に威力を発揮しだした。日本も整備されているディフェンスはいいのだが、一人ひとりに走られるととたんにタックルが甘くなってしまう。2トライ奪われて3-15になってしまった。五郎丸に代わって立川が入ってからリズムが良くなってきたのだが、日本の初トライは時すでに遅しの後半42分(ロスタイム)である。萩本監督は「体を張って耐えしのんで、最後は点を取った」と言うが、最後はカナダも力を抜いてたでしょう。

「フランス流ラグビー」というのは現在の日本代表には掲げるには高すぎる目標のように思える。但し、決まり事だらけの管理ラグビーでは行き着く先に限界がある(トルシエ・ジャパンはそれで一定の成果を収めたけど)。個々の能力では海外で活躍する選手の多いサッカーとは比較にならないが、個々の判断を重視する「フランス流ラグビー」を掲げるラグビー日本代表が、選手の自主性を重んじるジーコ・ジャパンとダブって見えてきたのは私だけだろうかw。